ダイエットで炭水化物を抜くと逆に太る?代謝が落ちる7つの科学的理由

「ダイエット中は炭水化物を抜いた方が痩せる」と、多くの人が一度は信じたことがあるはずです。近年も低糖質ダイエットや糖質制限(ロカボ)は根強い人気があり、人によっては短期間で体重が大きく落ちた経験があるかもしれません。

しかし——。

炭水化物を極端に減らすと、代謝が落ち、脂肪が燃えにくくなり、長期的には痩せにくい体質になる。
これは、栄養学・ホルモン学・運動生理学などの研究からはっきり示されています。

本記事では、
炭水化物が“ダイエットの敵”ではなく、“痩せ続けるために必要な栄養素”である理由
を、できる限り専門用語を噛み砕きながら解説します。


目次

60秒でわかるこの記事のポイント

  • 炭水化物は代謝を維持し、脂肪を燃やす「エネルギーの着火剤」
  • 糖質不足は甲状腺ホルモン・レプチンを低下させ、代謝が落ちる
  • 糖質を抜くと筋肉分解が進み、長期的に“太りやすい体”になる
  • トレーニング効率が下がり、NEATも低下して総消費カロリーが減る
  • 脳の主要燃料は糖質であり、不足すると集中力低下→暴食につながる
  • 研究では短期的に体重は減るが、脂肪減少効率は低糖質が優位ではない
  • ホルモンバランス維持のためにも「適量の炭水化物」は必要不可欠

1. 炭水化物は「代謝のエンジン」を動かす燃料

まず押さえておきたいのは、炭水化物は代謝を維持するうえで中心的な役割を担っている栄養素だということです。

炭水化物(糖質)は体内で最も効率よく利用されるエネルギー源であり、エネルギーを作る経路(解糖系)は脂肪やタンパク質よりもスピーディーに働きます。

糖質を過度に制限すると——

  • 甲状腺ホルモンのT3(代謝ホルモン)低下
  • レプチン低下(脂肪燃焼の司令塔)
  • コルチゾール上昇(ストレスホルモン)

といったホルモン変化が起こります。

レプチンとは?
レプチンは脂肪細胞から分泌されるホルモンで、「脂肪が十分にある」「代謝を高く保て」というサインを脳に送ります。
糖質不足が続くとレプチン値が低下し、脳は「飢餓状態だ」と判断して、脂肪燃焼を止め、代謝を落とします。

この働きにより、糖質を抜けば抜くほど“飢餓モード”になり、消費カロリーが落ちてしまうのです。


2. 糖質不足は筋肉を削り、代謝を落とす

糖質が不足すると、体はエネルギーを補うため「糖新生」という仕組みを使います。糖新生とは、タンパク質(筋肉)や脂肪を材料にして“糖を作り出す”プロセスです。

しかし、この時に最も犠牲になるのが筋肉のアミノ酸。

  • 糖質不足
  • 糖新生が活発化
  • 筋肉のアミノ酸が消費される
  • 筋肉量が減り、基礎代謝が低下

筋肉が落ちれば、
「同じ食事量でも太りやすい体」になります。
これは糖質制限ダイエットの長期的なデメリットとして多くの研究でも指摘されています。

糖新生とは?
肝臓・腎臓で行われる“糖を作り出す”作用。
空腹時や糖質不足のときに働き、タンパク質(筋肉)や脂肪を材料に糖を合成する。
特にタンパク質が利用されやすいため、長期の糖質制限では筋分解を起こしやすい。


3. 炭水化物を抜くとトレーニング効率が激落ちする

ダイエット中に筋トレや有酸素運動を取り入れる人は多いと思いますが、その効果を最大化するためには糖質が必須です。

筋肉を動かす主なエネルギー源は 筋グリコーゲン(糖質の貯蔵)
糖質が少ないと——

  • パンプしない
  • 重量が上がらない
  • 疲労が早い
  • 持久力が落ちる

結果的にトレーニングの質が下がり、消費カロリーも筋発達も低下します。

さらに、日常の活動量(NEAT:歩く・掃除する・立つなど)が低下し、
総消費カロリーが大きく落ちることがわかっています。

「糖質を抜いているのに痩せない」という人の多くは、
この“活動量低下”が起きています。


4. 脳・自律神経の主燃料は「糖質」。不足すると暴食を招く

脳は1日に約120gもの糖を使う“糖消費マシーン”。

糖質が極端に不足すると:

  • 集中力低下
  • 思考力の低下
  • イライラ
  • 衝動的な食欲
  • 夜に甘いものを爆食
  • 食欲ホルモン(グレリン)上昇

特に、糖質不足は「ドカ食い・暴食」の大きな原因になります。

引用:脳と糖質の関係
脳は脂質やタンパク質をほぼエネルギー源として利用できず、糖質を最優先で使う。
ケトン体も使えるが、完全適応には時間がかかり、多くの人は適応前に疲労と集中力低下が起こる。

“夜に爆食して後悔する”というダイエット失敗パターンは、
実は糖質不足によるホルモン変動が原因のことがほとんどです。


5. 短期で体重は落ちるが、脂肪ではなく水分と筋肉が落ちている

糖質制限ダイエットで最も誤解されがちなのが、「最初の数キロ痩せる」という部分です。

炭水化物1gには水分3gがセットで貯蔵されるため、糖質を抜いた瞬間にグリコーゲンが消費され、水分が抜けます。

そのため、

  • 体重は落ちるが、脂肪はほとんど減っていない
  • 脱水気味になり、パフォーマンス低下の原因にもなる

という状態になります。

また、脂肪の減少率を比較した研究の多くでは、

  • 「低脂質ダイエット」
  • 「低糖質ダイエット」

この2つの長期差はほぼ同じであり、
“糖質制限が脂肪減少に有利”という明確な根拠はないことが示されています。


6. “脂肪燃焼ホルモン”を働かせるには、適量の糖質が必要

脂肪を燃やすには、以下のホルモンが正常に働く必要があります。

  • レプチン(脂肪燃焼の司令塔)
  • 甲状腺ホルモンT3(代謝のエンジン)
  • インスリン(アミノ酸を筋肉に送る)

これらのメカニズムには、実は糖質が深く関わっています。

糖質が不足すると:

  • レプチン低下 → 脂肪燃焼ストップ
  • T3低下 → 基礎代謝ダウン
  • インスリン低下 → 筋合成低下(筋肉がつきにくい)

つまり、適量の糖質は
**“脂肪燃焼システムのスイッチを入れる役割”**を持っているのです。


7. 長期的に見ると「糖質制限は代謝が落ちやすい」

糖質制限は短期的に体重が落ちやすい一方で、長期では以下の問題があることが多くの研究で報告されています。

  • 代謝低下
  • 活動量低下
  • 筋肉量の減少
  • リバウンド率の高さ
  • 甲状腺機能の低下
  • 睡眠質の悪化

特に代謝の低下は深刻で、
「糖質制限をやめた瞬間に太りやすくなる」という現象を引き起こします。

これはレプチンやT3の低下により、
体が“省エネモード”になってしまうためです。


まとめ

炭水化物は「太る原因」と見られがちですが、科学的にはまったく逆で、炭水化物を抜くほど痩せにくい体になることがわかっています。

炭水化物は、代謝維持・筋肉維持・ホルモン分泌・脳機能・活動量・トレーニング効率など、ダイエット成功に必要なあらゆる要素と深く関係しています。

糖質を極端に減らせば、最初は水分が抜けて体重が減ります。しかし、それは脂肪ではなく「水」と「筋肉」です。長期的には、代謝低下・活動量低下・集中力低下・暴食などのデメリットが積み重なり、結果として太りやすい体質になってしまいます。

脂肪を効率よく落とすためには、適量の炭水化物を取りながら、全体のカロリー調整を行うことが最も再現性の高い方法です。
炭水化物は敵ではなく、「痩せ続けるための必要栄養素」。
ダイエット成功の鍵は「糖質を極端に抜かないこと」です。


参考文献

  1. Hall KD et al. “Energy expenditure and body composition changes after an isocaloric ketogenic diet.” Am J Clin Nutr.
  2. Rosenbaum M & Leibel RL. “The role of leptin in energy homeostasis.” Annu Rev Med.
  3. Bianco AC & McAninch EA. “The role of thyroid hormone in metabolic regulation.” Physiol Rev.
  4. Paoli A et al. “Ketogenic diet and skeletal muscle performance.” Front Physiol.
  5. Gibson AA et al. “Do ketogenic diets really suppress appetite?” Obes Rev.

免責事項

本記事は、科学的研究と一般的な栄養学の知見に基づき解説していますが、医療行為ではありません。持病のある方、薬を服用している方、極端な食事制限を行っている方は、自己判断で食事内容を大きく変更せず、必ず医療機関や専門家にご相談ください。

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