「寝ながら痩せる」「貼るだけで腹筋1,000回」──そんなフレーズで人気のEMS。
でも実際のところ、EMSはダイエットに向いていません。
むしろ本領を発揮するのは、ケガや病気で動けず筋肉が衰えてしまう「廃用症候群」のリハビリなんです(※5, ※6, ※7)。
60秒でわかるこの記事のポイント!
- EMSは「電気で筋肉を勝手に動かす」機械。
- 消費カロリーは少なく、EMS1時間=76kcal(=ポテチ10枚くらい)(※1)。
- 筋肉の維持やリハビリには有効だけど、脂肪を落とすには弱い(※2, ※3, ※4)。
- ダイエット目的なら「食事管理+運動」が主役、EMSはあくまでサポート役。
- 医療では、筋肉が弱った高齢者やリハビリ患者の筋力低下予防に活用されている(※5–7)。
EMSってなに?
EMSは 「Electrical Muscle Stimulation(電気的筋肉刺激)」 の略で、皮膚に貼ったパッドから電気を流し、筋肉を強制的に収縮させる機器です。通常、筋肉は脳からの指令(神経を介した電気信号)によって動きますが、EMSでは外部からの電気刺激によって**「脳を通さずに筋肉を動かす」**ことができます。
仕組み
- EMSの電気刺激は、皮膚表面から神経や筋肉に届き、筋繊維を収縮させます。
- 刺激の強さや周波数を調整することで、軽いピクピクした動きから、本格的な筋収縮まで幅広い反応を作り出せます。
- 自発的な筋トレと違い、**「意思に関係なく動く」**のが特徴です。
医療での活用
- もともとは医療分野で研究・利用が進んできた歴史があります。
- リハビリ:骨折や脳卒中などで動かせない筋肉に電気刺激を与え、萎縮を防ぎ、筋力低下を遅らせる目的で使用(廃用症候群対策)。
- 高齢者の介護予防:運動が難しい高齢者に使い、下肢筋力や歩行能力の維持をサポート。
スポーツでの活用
- アスリートのトレーニング補助としても使われています。
- ウォームアップで血流を促進したり、通常の筋トレに追加する形で負荷を高めたりする活用例があります。
- ただし、メインのトレーニングをEMSだけで置き換えることはできない、あくまで補助の位置づけです。
市販製品と「家庭用EMS」
それでも「ながら運動」や「筋肉を少しでも刺激したい人」にとっては一定の人気があります。
現在は家庭用として、腹部ベルト型、パッド型、ウェア型など多くの商品が市販されています。
「貼るだけで腹筋○千回」という広告が注目を集めましたが、実際にはエネルギー消費や筋肥大の効果は限定的で、過大広告が問題視されたこともあります。
EMSで痩せられる? → 答えは「ほぼNO」
消費カロリーは少ない
研究では、EMSを1時間行っても増える消費カロリーは約76kcal(※1)。
これは、
- 体重60kgの人が 15分歩くのと同じ
- ポテチ10枚分
- ご飯茶碗の 3分の1弱
つまり、「ちょっとしたおやつ」で帳消しになる程度です。
筋肉は少し鍛えられる
EMSを続けると、筋力がわずかにアップする研究結果もあります(※2)。
でも通常の筋トレと比べると効果は限定的で、「腹筋が割れる」ほどの刺激はありません。
EMSが本当に役立つ場面=リハビリ
一方で、EMSが真価を発揮するのはリハビリの現場です。
- ケガや入院で寝たきり
- ギプス固定で動かせない
- 高齢で動くのが難しい
こうした状況では「廃用症候群」といって、筋肉が急速に落ちてしまいます。
EMSは「自力で動かせない筋肉を刺激して衰えを防ぐ」目的で活用され、複数の研究で効果が確認されています(※5, ※6, ※7)。
安全性と注意点
- 使えない人:ペースメーカー使用者、妊娠中、重い心臓病がある人
- 副作用:皮膚が赤くなる、かゆみ、筋肉痛
- 使い方のコツ:不快感のない範囲で、1回10〜20分、週2〜3回程度が目安
まとめ
EMSは「貼るだけで痩せる」「寝ながら腹筋1,000回」といった夢のようなキャッチコピーで広まっていますが、実際には魔法のダイエットマシンではありません。
研究でも示されている通り、EMSによるカロリー消費はごくわずかで、1時間で約76kcal(※1)。これはウォーキング15分やポテチ10枚程度にしか相当せず、脂肪燃焼効果は日常生活の延長線レベルにとどまります。EMSだけで体重を落とすのは非現実的です(※2–4)。
しかし、EMSには「リハビリ」という大きな役割があります。ケガや病気で動けない人、高齢で活動量が低下している人は、筋肉を使わないことで急速に衰えてしまいます。こうした「廃用症候群」に対してEMSは、自力で動かせない筋肉を刺激して衰えを防ぐ有効な手段であり、多くの臨床研究で効果が報告されています(※5–7)。
つまり、EMSは「ダイエットの主役」ではなく、
- ダイエット目的 → 食事管理と運動が主役
- EMS → あくまでサポート役、もしくはリハビリで本領発揮
という立ち位置です。
読者がもし「痩せるためにEMSを買おうか」と考えているなら、まずは食生活の見直しと有酸素運動・筋トレを基本にしてください。EMSは、それを補助する「+α」として取り入れるのが正しい使い方です。
逆に、ケガ・病気・高齢などで運動が難しい場合には、医療者の指導のもとEMSを使うことで筋力低下や寝たきり予防に役立つ可能性があります。
要するに、EMSをどう使うかで価値は大きく変わるということです。痩身を狙う道具ではなく、健康維持やリハビリのサポートツールとして位置づければ、あなたの生活にプラスをもたらしてくれるでしょう。
参考文献
※1 Hsu MJ, et al. Effect of NMES on energy expenditure. J Med Biol Eng. 2011.
※2 Kemmler W, et al. WB-EMS vs resistance training. Evid Based Complement Alternat Med. 2016.
※3 Choi EJ, et al. Effect of EMS on abdominal obesity. Medicine. 2018.
※4 Rodrigues-Santana L, et al. Whole-body EMS: meta-analysis. Medicine. 2023.
※5 Maffiuletti NA, et al. NMES for critically ill patients. Crit Care. 2013.
※6 Silva PE, et al. NMES in traumatic brain injury. J Intensive Care. 2019.
※7 Alqurashi HB, et al. NMES for hospitalized adults: systematic review. BMJ Open Sport Exerc Med. 2023.
免責事項
本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、医師や専門家の診断・指導の代わりにはなりません。持病がある方、体調に不安がある方は必ず医師に相談の上ご使用ください。