「ダイエット中だけど、どうしてもお酒がやめられない」
そんな声をよく聞きます。確かにアルコールは脂肪燃焼を止め、場合によっては筋肉まで減らす作用があります。
しかし、正しく選び、適切に飲めば、ダイエットとお酒を両立させることは可能です。
本記事では、アルコールの代謝・筋分解の仕組み、脂肪燃焼との関係、そして甘いお酒が好きな人でも楽しめるゼロカロリー系チューハイの選び方まで、科学的根拠とともに解説します。
1分要約
- アルコールは1gあたり7kcalの高カロリーだが栄養価がほぼない
- 摂取後はアルコール代謝が最優先され、脂肪燃焼が停止する
- 大量飲酒は筋肉合成を阻害し、筋分解を促進(用量依存性あり)
- 糖質の多いお酒(ビール、日本酒、カクテル)は太りやすい
- おすすめは糖質ゼロ蒸留酒・辛口ワイン・人工甘味料入りゼロチューハイ
- トレーニング直後や空腹時飲酒は筋肉へのダメージが大きい
- 高タンパクなおつまみと一緒に、週1〜2回・適量が現実的
アルコールの代謝と脂肪燃焼
アルコール代謝の流れ
お酒を飲むと、アルコールは胃と小腸から吸収され、血液を通じて全身に運ばれます。肝臓はこれを毒物と認識し、分解を最優先します。
分解は2段階で行われます。
- **アルコール脱水素酵素(ADH)**がエタノールをアセトアルデヒドに変換
- **アルデヒド脱水素酵素(ALDH)**がアセトアルデヒドを酢酸に変換し、最終的に二酸化炭素と水として排泄
この過程では、NADH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)が大量に生成され、細胞内の酸化還元バランスが崩れます。その結果、脂肪酸のβ酸化(脂肪燃焼)が抑制され、逆に中性脂肪の合成が促進されます(※2)。つまり、アルコールが体内にある限り、体は脂肪を燃やさず、むしろため込みやすい状態になります。
ADH(アルコール脱水素酵素)
アルコールを「アセトアルデヒド」という有害物質に変える酵素。ALDH(アルデヒド脱水素酵素)
アセトアルデヒドを「酢酸」に変え、最終的に二酸化炭素と水にして排出する酵素。NADH(還元型補酵素)
アルコール代謝中に増える物質で、これが多くなると脂肪酸の分解(β酸化)が抑制される。
脂肪燃焼が止まる理由
アルコールを分解する間、エネルギー源として脂肪や糖を使う必要がなくなるため、これらは余剰分として脂肪細胞に蓄積されます。
例えるなら、「工場(体)がアルコール処理に全員を動員してしまい、他の作業(脂肪燃焼)が完全に後回しになる」イメージです。
Suterら(1992)の研究では、アルコール摂取後は脂肪酸酸化が大幅に低下し、中性脂肪の合成が増加することが示されています。
アルコールとカロリー・食欲
カロリーの性質
- アルコールは1g=7kcalと高カロリー
- 栄養価はほぼなく、満腹感も与えにくい
- 摂取中は他のカロリーが使われにくく脂肪に回りやすい
食欲増進効果
アルコールは脳の抑制機能を鈍らせるため、「食べすぎ防止ブレーキ」が外れます。
さらに、ホルモンバランスが変化し、食欲が増す方向に作用します。
そのため、「もう少し食べたい」という衝動を抑えにくくなります。
さらに、胃から分泌される食欲促進ホルモングレリンが増え、逆に食欲抑制ホルモンレプチンが減少することが研究で確認されています(※3)。
このホルモン変化により、飲酒中や飲酒後に高脂肪・高糖質な食べ物を好む傾向が強くなります
- グレリン増加:空腹感を強める
- レプチン減少:満腹感を弱める
Poppittら(1996)の研究では、アルコール摂取は短期的に総摂取カロリーを増加させることが確認されています。
アルコールと筋肉分解
影響のメカニズム
高用量のアルコール(体重1kgあたり1g以上、例:70kgなら70g=ビール約1.8L)を摂取すると、以下のような影響が起こります(※1)。
- テストステロンの分泌低下:筋タンパク質合成の重要なホルモンが減少
- コルチゾール増加:筋肉分解を促進するストレスホルモンが上昇
- mTOR経路の抑制:筋タンパク質合成の主要シグナル経路が阻害され、回復・成長が鈍化
- 筋タンパク質分解の促進:分解系(ユビキチン-プロテアソーム系)の活性化
特に、筋トレ直後の飲酒は回復を大きく阻害します。Parrら(2014)の研究では、トレーニング後にアルコールを摂取した場合、筋タンパク合成速度が最大で37%低下しました。
飲むタイミング別の影響
- 筋トレ直後:回復と筋合成が大きく阻害されるため最も避けたい
- 空腹時:筋分解リスクが高まりやすい
- 休養日・就寝前:影響は比較的少ないが、量には注意
ダイエット中におすすめのアルコール
種類の選び方
- おすすめ
- 蒸留酒(焼酎、ウイスキー、ジン、ウォッカ)…糖質ゼロ
- 辛口ワイン(糖質5g/100ml以下)
- 人工甘味料入りゼロカロリー系チューハイ
(キリン 本搾りZERO、サントリー -196℃ゼロ、アサヒ スタイルバランスなど)
人工甘味料とは
砂糖の代わりに甘みを出す物質で、カロリーほぼゼロ。
スクラロース、アセスルファムK、ステビアなどが一般的。
国際的な安全基準内での摂取は健康リスクが低いとされている(JECFA、FDA、EFSA)。
- 避けたい
- ビール、日本酒、梅酒、甘いカクテル(糖質・カロリーが高い)
実践的な飲み方チェックリスト
- 週1〜2回までにする
- 筋トレ直後・空腹時は避ける
- 高タンパクおつまみ(枝豆、焼き鳥、刺身など)と一緒に
- チェイサー(水・炭酸水)を挟む
- 1回の純アルコール量は男性20g、女性10g以内
詳しいまとめ
アルコールは代謝的に脂肪燃焼を止め、筋肉合成も阻害する可能性があります。
しかし、種類・量・タイミングを工夫すれば、ダイエットとお酒の両立は不可能ではありません。
糖質ゼロの蒸留酒や人工甘味料入りゼロチューハイを選び、筋肉を維持するための工夫(飲む前のタンパク質摂取、筋トレ日は避ける)を徹底しましょう。
「飲みたい日を選び、量を管理する」ことが、長期的な体型維持のカギです。
参考文献
※1:Parr, E. B., Camera, D. M., Areta, J. L., et al. (2014). Alcohol ingestion impairs maximal post-exercise rates of myofibrillar protein synthesis following a single bout of concurrent training. PLoS One, 9(2), e88384.
※2:Suter, P. M., Schutz, Y., & Jequier, E. (1992). The effect of ethanol on fat storage in healthy subjects. The American Journal of Clinical Nutrition, 55(4), 927-932.
※3:Poppitt, S. D., et al. (1996). Short-term effects of alcohol consumption on appetite and energy intake. Physiology & Behavior, 60(5), 1063–1070.
※4:WHO/FAO Joint Expert Committee on Food Additives (JECFA). (2019). Evaluation of certain food additives.