「最近疲れやすい」「なんとなく体調がすぐれない」と感じていませんか?
私たちの体は食べたものでできています。しかし、健康のために何かを始めようと思っても、「何から摂ればいいの?」「サプリメントは必要?」と悩む方も多いでしょう。特に、筋肉や美容、そして日々の元気の源となるアミノ酸は、聞いたことはあるけれど、その役割や種類を正しく理解している人は意外と少ないものです。
この記事では、自然界に存在する500種類以上のアミノ酸の中から、私たちの健康に不可欠なものはどれか、そして効果的な摂取方法まで、科学的根拠に基づき徹底的に解説します。アミノ酸の知識を身につけて、健康的で前向きな毎日を送りましょう。
60秒でわかる要点まとめ
- 自然界には500種類以上のアミノ酸が存在
- 人の体を作る「タンパク質性アミノ酸」は20種類のみ
- うち9種類が「必須アミノ酸」(食事から摂取必須)
- 残り11種類は「非必須アミノ酸」(体内合成可能)
- 条件付き必須アミノ酸は成長期・病気時に不足しやすい
アミノ酸とは?種類と構造・効果の基礎知識
筋肉・肌・髪・ホルモン――これらすべての材料になっているのがアミノ酸です。聞いたことはあっても、「種類が多すぎてよく分からない」という人は少なくありません。実際に人の体をつくるのは20種類のアミノ酸だけで、それぞれが異なる役割を担っています。
定義と構造
アミノ酸とは、アミノ基(-NH₂)とカルボキシル基(-COOH)の両方を持つ有機化合物です。すべてのタンパク質は、これらのアミノ酸が数十~数万個つながってできています。
アミノ基:窒素原子と水素原子からなる化学基で、アミノ酸の名称の由来になっています。
カルボキシル基:炭素原子、酸素原子、水素原子からなる化学基で、アミノ酸に酸の性質を与えます。
- 自然界の総数:500種類以上
- 人のタンパク質を構成:20種類のみ
- 栄養学的に重要:20種類+α(非タンパク質性アミノ酸)
アミノ酸の役割
- タンパク質の構成要素(筋肉、臓器、酵素、ホルモンなど)
- エネルギー源(糖質・脂質不足時)
- 神経伝達物質の材料(セロトニン、ドーパミンなど)
- 免疫機能の維持
人に重要な20種類のタンパク質性アミノ酸
必須アミノ酸(9種類)

体内で合成できないため、食事からの摂取が必須です。(※1)
| アミノ酸 | 主な働き | 不足時の症状 | 多く含む食品 |
| ヒスチジン | 成長促進、ヘモグロビン合成、アレルギー反応の調整 | 成長障害、貧血、疲労感 | 鶏肉、マグロ、チーズ |
| イソロイシン | 筋肉維持、疲労回復、血糖値調整 | 倦怠感、筋力低下、震え | 豚肉、大豆、卵、鶏むね肉 |
| ロイシン | 筋タンパク質合成のスイッチ(MPS)、筋萎縮の抑制※⁴ | 筋力・筋量低下、回復遅延 | 牛肉、魚、ホエイプロテイン、大豆 |
| リジン | コラーゲン合成、カルシウム吸収、ウイルス増殖抑制 | 骨量低下、肌荒れ、ヘルペス再発 | 鶏肉、魚介類、大豆製品、乳製品 |
| メチオニン | 肝臓の解毒作用、脂肪代謝、髪・爪の主成分 | 脂肪肝、疲労感、髪・爪のトラブル | 卵、魚、ナッツ、ゴマ |
| フェニルアラニン | 脳機能・神経伝達物質(ドーパミン)の原料 | うつ症状、集中力低下、記憶力減退 | 大豆、乳製品、肉類、魚介類 |
| トレオニン | 脂肪肝予防、免疫向上、コラーゲン構成成分 | 肝機能低下、免疫不全、肌のハリ低下 | 豚肉、ゼラチン、卵、鶏肉 |
| トリプトファン | 幸せホルモン「セロトニン」、睡眠ホルモン「メラトニン」の原料 | 不眠、気分障害、不安感 | バナナ、乳製品、大豆製品、肉類 |
| バリン | 筋肉維持、神経機能安定、中枢神経の興奮抑制 | 疲労、運動能力低下、不眠 | 鶏肉、牛乳、豆類、きのこ類 |
非必須アミノ酸(11種類)

体内で他のアミノ酸から合成可能ですが、十分な摂取が健康維持に重要です。
| 主要な非必須アミノ酸 | 主な働き |
| アラニン | 肝臓でのグルコース合成 |
| アルギニン* | 成長ホルモン分泌、免疫向上 |
| アスパラギン酸 | 疲労物質除去 |
| グルタミン酸 | 脳の神経伝達物質 |
| グルタミン* | 免疫細胞エネルギー源 |
| グリシン | コラーゲン構成、睡眠改善 |
| プロリン | コラーゲン安定化 |
| セリン | 細胞膜構成成分、タンパク質合成 |
| システイン* | 抗酸化作用 |
| チロシン* | 甲状腺ホルモン、ドーパミン材料 |
| アスパラギン | アンモニア解毒、タンパク質合成 |
条件付き必須アミノ酸

通常は体内合成できますが、成長期、病気、ストレス時、運動時など特定の条件下で不足しやすいアミノ酸です。アルギニン、グルタミン、システイン、チロシンなどが含まれます。
| アミノ酸名 | 不足しやすい状況 | 主な働き |
| アルギニン | 成長期、創傷治癒時、感染症時 | 成長ホルモン分泌、免疫向上 |
| グルタミン | 運動時、ストレス時、病気時 | 免疫細胞エネルギー源 |
| システイン | 高齢期、酸化ストレス時 | 抗酸化物質GSH合成 |
| チロシン | ストレス時、フェニルアラニン不足時 | ドーパミン、ノルアドレナリン合成 |
アミノ酸スコアで食品の質を評価
アミノ酸スコアとは
アミノ酸スコアとは、食品に含まれる必須アミノ酸が、どれだけ理想的なバランスに近いかを数値で評価した指標です。
人の体を構成するタンパク質は、20種類のアミノ酸から作られます。特に、食事からしか摂取できない9種類の必須アミノ酸は、体内で効率よく利用されるために、それぞれが十分な量、かつバランスよく含まれていることが重要です。
アミノ酸スコアは、このバランスを客観的に示すためのもので、最高値は100です。スコア100の食品は、必須アミノ酸がすべて理想的な基準値を満たしていることを意味します。
制限アミノ酸の概念
アミノ酸スコアを算出する際、基準となるのは、その食品に最も少ない量しか含まれていない必須アミノ酸です。これを制限アミノ酸と呼びます。
例えば、ある食品に必須アミノ酸がすべて含まれていても、トリプトファンだけが基準値の50%しか含まれていなかった場合、その食品のアミノ酸スコアは50となります。
体は、最も不足しているアミノ酸の量に合わせて、タンパク質を合成しようとします。そのため、他の必須アミノ酸が十分にあっても、この制限アミノ酸が少ないと、せっかく摂取したアミノ酸が体内で十分に活用されず、タンパク質の合成効率が低下してしまうのです。
非タンパク質性アミノ酸
タンパク質を構成しませんが、健康維持に重要な役割を果たします。
主要な非タンパク質性アミノ酸
| 非タンパク質性アミノ酸 | 働き | 主な食品 |
| タウリン | 心臓・肝機能向上、視力保護 | 魚介類(タコ、イカ、カキ) |
| オルニチン | 肝臓の解毒、成長ホルモン分泌 | シジミ、チーズ、マグロ |
| GABA(γ-アミノ酪酸) | リラックス効果、血圧降下 | 玄米、トマト、発芽玄米 |
| β-アラニン | 筋持久力向上、疲労軽減 | 鶏肉、牛肉、魚介類 |
アミノ酸不足の症状と対策
不足時の症状
身体症状
- 筋肉量・筋力低下
- 疲労感、だるさ
- 創傷治癒の遅れ
- 髪・爪・肌のトラブル
- 免疫力低下
精神症状
- 集中力低下
- 気分の落ち込み
- 不安感
- 睡眠障害
1日の推奨タンパク質摂取量(厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020年版」)
| 年齢・性別 | 推奨量 | 上限量 |
| 成人男性(18-64歳) | 65g | 設定なし※² |
| 成人女性(18-64歳) | 50g | 設定なし※² |
| 高齢男性(65歳以上) | 60g | 設定なし※² |
| 高齢女性(65歳以上) | 50g | 設定なし※² |
※2 通常の食事で過剰摂取のリスクは低いため上限設定なし
アミノ酸サプリの効果・選び方・注意点
サプリメント利用の前に
⚠️ 重要な注意点
- 食事が基本、サプリメントは補助
- 過剰摂取のリスクあり
- 薬との相互作用の可能性
主要なアミノ酸サプリメント
BCAA(分岐鎖アミノ酸)
- 成分:ロイシン、イソロイシン、バリン
- 目的:運動時の筋肉維持、疲労軽減
- 摂取目安:運動前後に5-10g
- 注意点:過剰摂取で疲労感増加の報告あり
EAA(必須アミノ酸)
- 成分:必須アミノ酸9種類
- 目的:筋タンパク質合成促進
- 摂取目安:10-15g/回
- 注意点:胃腸障害のリスク、段階的に量を増やす
個別アミノ酸
- トリプトファン:睡眠改善目的(500-1000mg)
- グルタミン:免疫サポート(5-10g)
- アルギニン:血流改善(3-6g)
過剰摂取のリスク
一般的なリスク
- 胃腸障害(下痢、吐き気)
- 肝臓・腎臓への負担
- アミノ酸間のバランス崩れ
特定アミノ酸のリスク
- メチオニン過剰:動脈硬化リスク
- システイン過剰:腎結石リスク
- トリプトファン過剰:眠気、めまい
特別な状況での必要量
妊娠・授乳期
- 追加必要量:妊娠中期+5g、後期+25g、授乳期+20g
- 重要なアミノ酸:胎児の成長にリジン、メチオニンが重要
- 注意点:サプリメント利用前に医師相談必須
高齢期(65歳以上)
- 特徴:筋肉量減少(サルコペニア)のリスク
- 推奨:体重あたり1.0-1.2g/kg のタンパク質摂取
- 重要性:ロイシンによる筋タンパク質合成刺激
サルコペニア:加齢によって筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下する状態。高齢者の転倒や寝たきりの原因の一つとされています。
成長期(小児・思春期)
- 特徴:身長・体重の急速な増加、骨・筋肉発達
- 重要アミノ酸:アルギニン、リジン
- 注意点:偏食による不足に注意
アスリート・運動習慣がある人
- 特徴:筋肉損傷と修復のサイクルが頻繁
- 重要アミノ酸:BCAA(特にロイシン)、グルタミン
- 注意点:腎機能への過剰負担に注意
ダイエット・減量期
- 特徴:筋肉分解リスクが高まる
- 重要アミノ酸:ロイシン、メチオニン
- 注意点:総カロリーとのバランスが必須
疾患・入院・手術後の回復期
- 特徴:炎症・感染・組織修復で需要増加
- 重要アミノ酸:グルタミン、アルギニン
- 注意点:腎・肝疾患では制限が必要になる場合あり
慢性疾患(糖尿病・心不全・腎疾患など)
- 特徴:病態により必要量が変動
- 重要アミノ酸:分岐鎖アミノ酸(BCAA)など疾患特有のニーズあり
- 注意点:必ず主治医・管理栄養士の指導下で服用
よくある質問(FAQ)
Q1. アミノ酸を空腹時に摂取したほうが良いですか?
A. 吸収速度は空腹時の方が早いですが、胃腸障害のリスクがあります。食後30分-1時間後が推奨です。
Q2. アミノ酸サプリメントに副作用はありますか?
A. 適量であれば副作用は少ないですが、過剰摂取で胃腸障害、肝腎への負担があります。持病がある方は医師相談が必要です。
Q3. 子供にアミノ酸サプリメントを与えても良いですか?
A. 小児への使用は推奨しません。成長期は食事から十分摂取可能で、サプリメントによる過剰摂取のリスクがあります。
Q4. アミノ酸サプリメントはいつまで続けるべきですか?
A. 明確な期間の設定はありませんが、定期的に摂取状況を見直し、医師・薬剤師と相談することを推奨します。
Q5. ベジタリアンでも必須アミノ酸は摂取できますか?
A. 可能です。豆類+穀物、ナッツ+種子類の組み合わせでアミノ酸スコア100を実現できます。
まとめ
アミノ酸は人の健康に不可欠な栄養素です。自然界には500種類以上存在しますが、人のタンパク質を構成するのは20種類のみ。そのうち9種類の必須アミノ酸は食事からの摂取が必須です。
健康維持のポイント
- バランスの良い食事を基本とする
- 毎食タンパク質食品を摂取する
- 多様な食品を組み合わせる
- サプリメントは医師・薬剤師と相談してから利用
- 過剰摂取に注意し、適量を守る
アミノ酸の知識を正しく理解し、健康的な食生活に活かしましょう。
参考文献
- WHO/FAO/UNU. “Protein and amino acid requirements in human nutrition.” World Health Organization technical report series 935 (2007): 1-265.
- 厚生労働省.「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書. 2019.
- Wu, Guoyao. “Amino acids: metabolism, functions, and nutrition.” Amino acids 37.1 (2009): 1-17.
- Wolfe, Robert R. “Branched-chain amino acids and muscle protein synthesis in humans: myth or reality?.” Journal of the International Society of Sports Nutrition 14.1 (2017): 1-7.
- 日本栄養・食糧学会編.「アミノ酸の科学と機能性」建帛社, 2018.
- Phillips, Stuart M., and Luc JC Van Loon. “Dietary protein for athletes: from requirements to optimum adaptation.” Journal of sports sciences 29.sup1 (2011): S29-S38.
免責事項
本記事は一般的な栄養情報の提供を目的とし、個別の医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の問題や症状がある場合は、医師にご相談ください。サプリメントの使用については、医師・薬剤師にご相談の上、適切に判断してください。

