「フォシーガ(ダパグリフロジン)」「ジャディアンス(エンパグリフロジン) 」「カナグル(カナグリフロジン)」──
いずれもSGLT2阻害薬に分類される、糖を尿から排出する新しいタイプの糖尿病治療薬です。
最近では「飲むだけで痩せる」「心臓にいい」「腎臓を守る」などの話題で注目されていますが、
実はこの3剤には作用の微妙な違いがあり、目的によって向いている薬が異なります。
この記事では、理学療法士の視点から、
それぞれの特徴を「ダイエット・代謝・エビデンス」という3軸で比較。
「どの薬がどんな人に向いているか」までわかりやすく解説します。
60秒でわかるこの記事のポイント!
- 3剤ともSGLT2阻害薬だが、作用部位・副作用・代謝経路が異なる
- フォシーガ:バランス型(心腎保護+体重減少)
- ジャディアンス:心臓特化型(死亡リスク低減エビデンス最多)
- カナグル:糖吸収ブロック型(SGLT1も阻害)
- ダイエット目的での使用は医師管理下でのみ安全
🧠 SGLT2阻害薬の共通の仕組み
腎臓で糖を再吸収するタンパク質「SGLT2」をブロックし、
尿中に糖を排泄して血糖を下げるのが基本の作用です。
この結果として:
- 血糖値の低下(インスリンに依存しない)
- 体重減少(1日あたり約200〜300kcalの“糖カロリー”を排出)
- 血圧低下(ナトリウム排泄による)
- 心臓・腎臓の負担軽減
といったメタボリック改善効果が得られます。
💊 3剤の基本スペック比較表
| 薬剤名 | 一般名 | 主な作用特徴 | 1日投与量 | 体重減少効果 | 心腎保護効果 | 特徴的ポイント |
|---|---|---|---|---|---|---|
| フォシーガ | ダパグリフロジン | バランス型 | 5〜10mg | 約−2〜3kg | ◎ | 最初に登場。腎臓・心不全に保険適用あり |
| ジャディアンス | エンパグリフロジン | 心臓特化型 | 10〜25mg | 約−3kg | ◎◎◎ | 死亡リスクを下げる大規模試験で実証 |
| カナグル | カナグリフロジン | SGLT1/2デュアル型 | 100mg | 約−3〜4kg | ◎◎ | 腸での糖吸収もブロック。脂肪肝改善も |
① フォシーガ(ダパグリフロジン):最も“万能型”
フォシーガは、アストラゼネカ社が開発した最初のSGLT2阻害薬であり、
糖尿病・心不全・慢性腎臓病まで幅広く使われています。
✅ 特徴
- バランスの良い作用:血糖・体重・血圧をすべて改善
- **腎臓保護エビデンス(DAPA-CKD試験)**が豊富
- 脱水・尿路感染などの副作用は比較的少なめ
🔥 ダイエット視点でのポイント
フォシーガは体重減少効果が最も安定している薬です。
筋肉を極端に落とさず、脂肪燃焼を緩やかに促すタイプ。
“無理なく減量したい人”には理想的。
1日あたり約200kcal相当の糖を尿中に排泄すると言われており、
食事制限をしなくても「自然にカロリー赤字」になる仕組みです。
② ジャディアンス(エンパグリフロジン):心臓に強い
ベーリンガーインゲルハイム社とイーライリリー社が開発したジャディアンスは、
心血管保護効果が最も高いSGLT2阻害薬として知られています。
✅ 特徴
- EMPA-REG OUTCOME試験で心血管死亡を38%低減(※1)
- 心不全・死亡率低下のエビデンスが圧倒的
- 利尿・脱水作用がやや強い
🔥 ダイエット視点でのポイント
- 体重減少は平均−3kg前後と安定
- 心臓負担を減らし“代謝効率”を高める
- 尿量増加で浮腫(むくみ)改善効果もあり
「代謝が落ちて心臓が重い」「むくみやすい」という人には相性が良い。
逆に、水分摂取が少ない人・高齢者は脱水リスクに注意。
③ カナグル(カナグリフロジン):糖吸収までブロックする“攻め型”
田辺三菱製薬とJ&Jが共同開発したカナグルは、
SGLT2に加えてSGLT1も部分的に阻害する“デュアル阻害薬”です。
✅ 特徴
- 腎臓の糖再吸収+小腸での糖吸収を抑える
- 食後血糖の上昇を防ぐ唯一のSGLT2薬
- 脂肪肝改善・インスリン抵抗性改善の報告あり(※2)
🔥 ダイエット視点でのポイント
- 食事由来の糖もブロックするため、食後高血糖を防ぎやすい
- 体重減少効果は−3〜4kgとやや強め
- 食事コントロールが苦手な人に向く
「食後に眠くなる」「血糖スパイクが気になる」という人には最適。
一方、下痢や胃部不快感が出る場合もあるため、空腹時服用は避けるのが無難。
⚖️ 3剤の比較まとめ表
| 比較項目 | フォシーガ | ジャディアンス | カナグル |
|---|---|---|---|
| 血糖コントロール | ◎ | ◎ | ◎◎ |
| 体重減少 | ◎ | ◎ | ◎◎ |
| 脂肪肝改善 | ○ | ○ | ◎ |
| 心血管保護 | ◎ | ◎◎◎ | ◎ |
| 腎臓保護 | ◎◎ | ◎◎ | ◎◎ |
| 脱水リスク | 低 | 中 | 中〜高 |
| 食後高血糖抑制 | △ | △ | ◎◎ |
| ダイエット適性 | バランス型 | 代謝型 | 食事制御型 |
科学的エビデンスまとめ
| 試験名 | 対象薬剤 | 主な結果 |
|---|---|---|
| EMPA-REG OUTCOME(2015) | ジャディアンス | 心血管死亡を38%減少(※1) |
| CANVAS Program(2017) | カナグル | 心血管イベント14%減、腎保護効果あり(※2) |
| DAPA-CKD(2020) | フォシーガ | 腎不全リスク39%低下、非糖尿病患者にも有効(※3) |
いずれも「血糖値の改善を超えたメタボ全体の改善」に寄与しており、
その結果、脂肪燃焼・代謝向上・浮腫改善といった**“ダイエット的副次効果”**が期待されています。
⚠️ 副作用と注意点
| 副作用 | 内容 | 対策 |
|---|---|---|
| 尿路感染・性器感染 | 尿糖増加により細菌繁殖しやすい | 水分摂取・清潔保持 |
| 脱水・低血圧 | 利尿作用による | こまめな水分補給 |
| ケトアシドーシス | 糖質制限との併用でリスク上昇 | 糖質を完全に抜かない |
| 下痢・胃部不快感 | 特にカナグルで報告あり | 食後服用で軽減 |
🧩 どの薬が“どんな人”に向いているか?
| タイプ | 向いている薬 |
|---|---|
| 総合的に痩せたい・安定重視 | フォシーガ |
| 心臓や血圧が気になる・むくみやすい | ジャディアンス |
| 食後血糖・脂肪肝・糖質多めの食事 | カナグル |
まとめ
フォシーガ・ジャディアンス・カナグルはいずれも「SGLT2阻害薬」と呼ばれる、腎臓での糖再吸収を抑えて尿に排出することで血糖を下げる薬です。もともと糖尿病治療薬ですが、体重減少・血圧低下・心腎保護といった“代謝改善”効果が認められ、ダイエット文脈でも注目されています。
3剤の違いを簡単にまとめると、フォシーガは最もバランスが良く、血糖・体重・腎臓を総合的に改善する“万能型”。ジャディアンスは心臓保護エビデンスが豊富で、心不全や代謝低下を伴う人に最適な“心臓特化型”。カナグルはSGLT1も部分的に阻害し、腸からの糖吸収を抑える“攻め型”で、食後高血糖や脂肪肝にも効果的です。
いずれも平均2〜4kg程度の体重減少が見込まれますが、脱水や尿路感染などの副作用にも注意が必要です。SGLT2阻害薬は“飲むだけで痩せる薬”ではなく、“代謝を整える薬”。医師の管理下で使うことで、リバウンドを防ぎつつ健康的に体を変えていくサポートとなります。

参考文献
※1:Zinman B et al. Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2015.
※2:Neal B et al. Canagliflozin and Cardiovascular and Renal Events in Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2017.
※3:Heerspink HJL et al. Dapagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease. N Engl J Med. 2020.
※4:Yabe D et al. Long-term efficacy and safety of SGLT2 inhibitors in Japanese patients with type 2 diabetes. Diabetes Obes Metab. 2019.
免責事項
本記事は最新の医薬品情報および研究データをもとに作成していますが、
医療行為・処方を推奨するものではありません。
実際の服用・変更は必ず医師や薬剤師にご相談ください。
ダイエット目的での自己判断使用は健康リスクを伴います。





